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馬鹿になろう

馬鹿になろう|トモニこころのクリニック|東京都小平市の心療内科・精神科

前回は「ストレス」と「不安」は似ているようで実は違うものだ、というお話をしました。

では、不安をまったく持たない人はいるのでしょうか。多くの人は「ほかの人は健康で、不安なんて抱えていないのでは」と思ったり、「芸能人の〇〇はあんなに輝いていて、不安なんかないだろう。それに比べ私ときたら…」と比べてしまったりするかもしれません。そんなふうに感じたことがある方も少なくないでしょう。

けれど、実際に多くの方を診ていると「精神科とは無縁だと思っていた」と話す方が少なくありません。精神の仕組みから言っても、不安をまったく持たない人はいないのです。明るく見える人も、不安を抱えています。ただ、それでも表に出さないようにして前向きに生きようとしているのか、あるいは「不安なんてない」と自分でも認めないようにしているのか(心理学では「否認」と呼びます)、その違いだけです。

より健康な人とは「まったく不安なんてないかのように振舞っている人」ではなく、「不安を抱えながらも前を向いて生きられる人」です。だからこそ「健康な人」ではなく「健康的な人」と表現するのがふさわしいかもしれません。

では、どんなときに不安を強く感じるのでしょうか。ひとつ大きな要因は、理想と現実が大きく食い違ってしまっているときです。心理学では「理想自我」と呼ばれるものがあり、それと今の自分がかけ離れていると、「自分はだめだ」と感じやすくなります。さらに他人と比べて「○○はあんなにできるのに、自分はどうして…」と思うと、理想が力を持ちすぎ、自分を厳しく批判し始めてしまいます。

そしてその批判が強くなると、心の中で「おまえはだめなやつだ」という声にまでなってしまうことがあります。自分自身(自己)が責められているのですから、穏やかではいられません。存在価値が脅かされるように感じ、不安に押しつぶされそうになるのです。

では、不安を抱かないようにするにはどうすればよいのでしょうか。結論から言えば、不安をなくすことはできません。生きている以上、誰にでも不安は訪れます。ただし、不安を和らげることはできます。

そのためには「理想の自分」になろうとしすぎず、「本来の自分」で生きることです。これは簡単ではありませんが、他人からの評価を追いかけて成功を求めるのではなく、自分の心が満足できる幸せを求めることが大切です。

「馬鹿になれ」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。まさにその通りで、不安を感じるときは「理想の自分になろうと必死な自分」に気づくことが第一歩です。人が何と言おうと自分らしく生きられる人は、理想に振り回されにくいからこそ、楽に生きられるのです。

 

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